本研究では,スポーツクライミングの一種であるボルダリング競技における選手の動作を高精度に捉える姿勢推定手法を提案しました.従来の姿勢推定モデルは,クライミングのような複雑な動作や身体の一部が他の部位やホールドに隠れる「オクルージョン」の影響を受けやすく,推定精度が著しく低下する課題がありました.
この問題に対し,本研究では次の2点に注目してアプローチしました.
1つ目は,半教師あり学習の導入です.これは,ごく少量のラベル付き(正解付き)データと大量の未ラベルデータを併用してモデルを学習させる手法で,ラベル作成の手間を大幅に軽減できます.本研究ではわずか100枚のラベル付き画像と1,900枚の未ラベル画像を用い,従来2,000枚のラベル付きデータが必要だったモデルに迫る精度を達成しました.
2つ目は,ホールド(壁に取り付けられた突起物)情報の活用です.クライマーの手足は多くの場合ホールド上にあるという競技特性に着目し,手足の推定位置をホールドマスク画像を用いて上記の半教師あり学習で用いる疑似ラベルを生成しました.さらに,ホールドの位置情報を画像に埋め込み,推定モデルに視覚的に認識させる工夫も加えました.
実験では,提案手法が従来法よりも高精度な姿勢推定ができることを示しました.これにより,将来的にはボルダリング競技における動作解析やパフォーマンス評価,トレーニング支援への応用が期待されます.

図1:研究の概要

図2:オクルージョンの例