人間は他者の行動の背景にある意図を推定する能力を持ちます.例えば,歩いている人がどこに向かおうとしているのか予測したり,手を伸ばしている人が何を掴もうとしているのかを推測したりすることができます.このように他者の意図を推定し,他者の心の状態を理解する能力は人間の社会生活で重要な役割を担っています.
この能力を実現する仕組みの仮説としてシミュレーション説があります.シミュレーション説では,自己の心のモデルを他者に適用し他者の行動をシミュレートする,つまり,「自分が他者の立場ならどのように行動するか?」を考えることによって人間は他者の心を理解しているという説です.
シミュレーション環境で,何かの意図をもって動いている他者を自己が見ている,という状況を設定します.この状況において重ね合わせ機構をもつ深層学習モデルで自己の視覚画像を予測する学習を行いました.
その結果,モデルは他者の意図の情報が与えられていないにもかかわらず,内部で他者の意図を推定する能力が獲得されました.このことから,重ね合わせ機構は他者の心を理解するための基盤の仕組みとなりうることが分かりました.